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ネットの長時間利用が子どもたちに与える影響 -阿部圭一 -

ここでは、ネット依存とまではいかない子でも、スマートフォン(スマホ)とインターネット(ネット)の長時間利用によって、悪影響が心配されることを述べます。

 

若者のスマホ利用時間

平成29年度の消費者白書では、若者の消費行動を特集しています。15〜25歳の1日あたりのスマホ利用時間は、3時間以上が73.0%、そのうち5時間以上42.2%、7時間以上23.9%、13時間以上も7.5%います。ただし、デジタルアーツ社の調査(小4〜高3)では、これより低い値になっています。

 

つながり依存

スマホという、いつでもどこでもネットにつながることのできる道具を常に携帯していることから、常に友だちとつながっていないと不安であるという状態に子どもたちが置かれています。しかし、ネット上のつながりは、友だちの数は多いけれども、浅い関係になりがちです。それは、自分が傷つきたくないから、他人も傷つけない、という考えからです。

 

自我の確立を妨げる

思春期には自我の確立(自立)のため、孤独に耐えて自分自身と向かい合う時間が必要です。しかし、スマホを長時間使っていると、そういう時間がとれません。SNSを使って他者との「つながり」を求め続けてばかりいると、一人になって考えるという方向に気がまわりません。他者から自分がどう見えるかばかりがいつも気になります。また、顔を合わせての会話が減ることによって、他者との関係のコントロール能力や共感が衰えるとも言われます。

 

細切れの情報を常に追いかける

LINE、ツイッター、フェイスブックなどのSNSでは、その場かぎりの短文で、細切れの情報交換がほとんどを占めます。それらをたえず追いかけてたくさんの情報を知れば、利口になったように錯覚します。しかし、知識というものは、細切れの情報の寄せ集めではなくて、情報のあいだの関係がつけられ、体系化されてはじめて役立つものではないでしょうか?

情報が多すぎるために、自分が気に入る情報だけを追いかけていくだけでも、時間が足りません。そのため、狭い視野からの判断をしがちです。多面的・複眼的な見方が育ちません。

 

書き言葉(文章)からネット言葉(短文、映像、画像)へ

さらに、子どもたちが取り入れる情報が、文章から映像・画像へとどんどん移っています。これによっても、論理よりも感覚重視の方向へ行きます。そのせいか、簡単な内容の文章を正しく読みとれない中高生が何割もいます。大学生の半分はまったく本を読まないそうです。また、何かを筋道だって説明したり、文章に書いたりすることもできない若者が増えているという話もあります。そのような学生が企業の正社員や派遣社員としてまともに働けるでしょうか? 一生アルバイトで、コンビニやチェーン飲食店での単純な繰り返し労働をする能力しかない若者を、大量に生みだす恐れがあります。少子高齢化により、少ない労働可能人口で高齢者と幼少年を支えなければならない中で、自分が食うだけで精いっぱいの人たちを抱えこむことになります。これは、個々人の問題を超えて、日本の社会全体の重大な問題です。

阿部圭一(あべ けいいち)/静岡大学名誉教授
専門は情報学、情報教育ケータイが青少年に及ぼす影響やネット依存の問題にもかかわってきた
著書に『「伝わる日本語」練習帳』(近代科学社)ほか

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